「立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花」
日本に古くから伝わる美女を形容するたとえですね。
茎が細く風にやさしく揺れる姿が優雅なことから、百合(ゆり)の花がそのひとつに選ばれているようです。
そもそも “ゆり” の語源は、 “ゆする” “ゆらぐ” といったところからきているという説もあります。
ひょっとしたら昔の日本の田園風景には、そこかしこで百合の花が風に揺られ、人々の心に一時の潤いを与えていたのかもしれません。
fleur-de-lys
百合は、西洋においても特別な花として用いられています。
百合の花をフランス語に変換すると、『 フルール・ド・リス=fleur-de-lys 』 となります。
『フルール・ド・リス』 という言葉に聞き覚えはありませんか?
もしその言葉を知らない人でも、次に出てくる図柄を見れば一度や二度、どこかで見かけたことがあると思います。
この図柄は、『フルール・ド・リス=百合紋章』 と呼ばれるものです。
『フルール・ド・リス』 は、フランスの王家の紋章として代々使われてきたそうですが、フランス以外の西洋の国々でも紋章や国旗、また芸術的な図形として幅広く描かれてきたようです。
西洋において、この 『フルール・ド・リス』 は、権力や繁栄を示す象徴としてあらゆるところにマーキングされていたことがわかります。
サッカー・スペイン代表のエンブレムには、今でもこの 『フルール・ド・リス』 がしっかりと刻印されています。
面白いのは、上の図柄を見てわかるように 『フルール・ド・リス』 にはいろいろなデザインがあるということです。
丸みを帯びたものや先の尖ったもの、なかには雄しべが描かれているものもあるようです。
じっくり見ていると、ひとつひとつの線や曲線に主義主張が込められているようにも感じます。
そんな百合の名を冠した 『フルール・ド・リス』 ですが、実をいうと、この図柄のモチーフになっているのは百合ではなくアイリスの花だといわれています。
ただ、これには諸説あるようで、このことについてはあまり重要視はされていません。
この図柄に 『リス(lys)=百合』 と名づけたことに、西洋人にとって “百合の花” が特別な存在であるといえるでしょう。
聖母マリアの象徴
百合の花が西洋の文化に深い関わりを示すもうひとつの史実があります。
キリスト教の聖書には、百合の花がしばしば登場します。
なかでも特筆すべきなのが 『受胎告知』 に描かれる百合の花です。
ここで描かれる百合は、マドンナリリー という品種の白い百合の花です。
“純潔” “無垢” をあらわす聖母マリアを象徴して描かれているといわれています。
教会で祭壇に白い百合の花が飾られている光景を目にしますが、教会と百合の花にはこのような密接な関わりがあったのです。
こうしたことからもわかるように、百合を用いたウエディングブーケはひときわ格調高くとらえられています。
特に、 “百合の女王” の異名をとる カサブランカ という品種は、百合の中でも最大級の花を咲かせ、強い芳香は圧倒的な存在感を示します。
このカサブランカを用いたダイナミックなキャスケードブーケは、それこそ花嫁の憧れのブーケといえるでしょう。
日本でも西洋でも一目置かれる百合の花。
白い百合のブーケは、”厳かなキリスト式にこそふさわしいブーケ” といえるのではないでしょうか。
劇的花屋(ドラマティックフラワーズ)
フラワーアーティスト 和田浩一