本年最後となった12月第一週目のウェディングは、冬晴れの透き通った青空が広がる絶好のコンディションで当日の朝を迎えた。
ところがしかし、そんな青空とは裏腹に私の心はどんより曇り空。
「あれっ?? このままじゃ咲かないんじゃね?!」
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今回挙式をあげるカップルのウェディングコンセプトは ”時計”。
会場デコレーションからペーパーアイテムに至るまで、時計にまつわる手法で自分たちらしさを表現したいと考えているようだった。
打合せ時にウェディングプランナーさんから、
「テーブルに飾るお花で時の流れを表現したいんですけど、何かいいアイデアないでしょうかね?」
という相談を持ちかけられた私は、すぐさまその場で思考を巡らし2つのアイデアを閃かせると、早速カップルにプレゼンを開始した。
「こうでああでこうがああなって。」
「ふんふんふんふん。」
とテンポよく会話のキャッチボール。
で、結局どちらのアイデアも気に入ってくださったのだが、特に強く興味を示してくれたのが、
「ポピーの花を飾ってゲストの方々に花が咲く様子を目の前で体感してもらうっていうのはいかがですか?」
という案だった。
💡 ポピーってどんな花? 園芸種:アイスランドポピー 科名:ケシ科 原産地:北アメリカ南部 開花期:5〜6月 花色:赤・白・黄・橙・ピンク 花言葉:「いたわり」「思いやり」「恋の予感」「陽気で優しい」 |
「そんなことってできるんですか?」
「蕾から満開に花が咲くまでの様子をゲストの方々に目の前で体感してもらう。そんなことってできるんですか?」
「はい、不可能ではありません。ポピーは咲き始めると勢いが止まらなくなりますので。ただ、今の時期はポピー本来の季節ではないので100%上手くいくという保証はできませんけど。」
「・・・。」
「非常にギャンブル性の高い試みではあります。」
たしかに、正味2時間30分の披露宴の中で蕾の状態の花を満開に咲かせるというのは一種のマジックに近いといえるだろう。
ふたりはしばし思案した後、そのリスクを承知の上で賭に出ることを宣言した。
ふたりのユーモア心がチャレンジに舵を切らせたのだった。
「安心してください。咲かせますよ。」
私の言葉にふたりの期待は大きく膨らんだようだった。
テスト
実はこの打合せをした日というのは本番10日前。
花の仕入れを考えるとギリギリの日程。
ぶっつけ本番は避けたいが為、リスクヘッジとしてテスト用のポピーを一足早く入荷させ開花具合を観察。このテスト用花材の入荷ですら日程的にはギリギリいやかぶり気味。
いざとなったら伝家の宝刀アラジンストーブの出動だ。
以前桜の開花調整でアラジンストーブの助けを借りたときの様子↓
ところがどうしたことか、私の心配をよそに、テスト用に仕入れたポピーはほぼハイシーズンの状態に近いスピードでポツポツと殻を破り始めたではないか。なんていい子たちなんだ。
「これなら大丈夫だな。安心安心。」
本番用のポピーは本番4日前に入荷。その数1000本。
私の計算では入荷からの3日間で開花に目処を立て、本番当日会場でドカーン!と乱れ咲き。
あれ?? このままじゃ咲かないんじゃね?!
本番前日の金曜日。
天気予報ではかなり冷え込むとの予報が出ていたので、これは早めに室温上げた方が良いなと思っていたが予報に反して案外暖かい。
「これはアラジンの出番はなさそうだな。」
私の思い描いた通りに殻を破り始めていくポピーを横目にしながら、私は安心して別の作業に取り掛かっていた。
ところが、好事魔多し。
ここから事態は急変する。
夕方5時くらいになってふとポピーの様子を見てみると、どうも午前中の状態と比較して変化が感じられない。
で、テスト用に早めに仕入れていたポピーに目を向けると、こちらも殻が閉じきったままのものが相当数ある。これがもし本番用のポピーだったらタイムアウト。
本番は翌日、正確にはパーティー開始まで20時間切っている。
「あれ?? このままじゃ咲かないんじゃね!?」
「あれ?? このままじゃ咲かないんじゃね!?」
・・・
今回ポピーの開花調整でアラジンストーブの助けを借りたときの様子↓
1000本のポピーは咲いたのか?!
いや〜、咲きました。良かったっす。
当日会場入れした後、次から次へと殻がポロポロ落ちてきて見事に咲いてくれました。
「テーブルに飾るお花で時の流れを表現したいんですけど、何かいいアイデアってありますか?」
はい、あります、あります。
「ポピーは咲き始めると勢いが止まらなくなります。」
「安心してください。咲かせますよ。」
ってだから言ったじゃないですか〜〜〜はっはっはぁぁああぁぁ〜〜〜
「・・・。」
実はご新郎ご新婦からは、
「もし仮に咲かなくても、このようなご提案をしてくれたその気持ちだけで私達は満足です。」
と言っていただいていたのだ。
そんなことを言われてしまうと俄然燃えるのが職人魂。
無事任務完了。
ご協力いただいたウェディングチームのみなさま、1000本のポピーを手配してくださった仕入先様、ありがとうございました。
こうして、冬晴れの透き通った青空の下、いい締めくくりで今年一年のウェディング業務が終了したのだった。